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静岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)7号 判決 1974年1月25日

原告 中村杢二

被告 静岡県人事委員会

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

被告が昭和四七年一一月一六日付でした原告の勤務条件に関する措置要求を棄却する旨の判定および同年一二月二八日付でした再審要求を却下する旨の決定をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  請求の原因

(一)  静岡県教育委員会は、従来から、年度末三月三一日の人事異動に当り、教職員で満六〇才に達した者に退職勧奨を行ない、これに応じた者には退職金の優遇措置をし、これに応じない者には翌年度以降は退職金の優遇措置を行なわないことにしていた。

(二)  原告は、明治四五年四月一日生であるから、昭和四七年三月三一日には満六〇才に一日不足するにもかかわらず、県教育委員会は原告を満六〇才に達した者として扱い、原告が退職勧奨に応じないため昭和四七年度以降は退職金の優遇措置を行なわない旨昭和四七年三月一八日原告に通知した。

(三)  原告は、これを不当として、同年五月二二日、静岡県人事委員会に対し、「四月一日生れは、誕生日に満六〇才になるから三月三一日では満六〇才にならず、原告の場合昭和四七年四月一日満六〇才になるので昭和四八年三月三一日(昭和四七年度末)に退職勧奨を求める。」旨の措置要求をしたところ、右人事委員会は、昭和四七年一一月一六日付判定書で、「年令計算は、明治三五年法律第五〇号年令計算に関する法律により初日を算入し、末日は民法第一四三条の準用により起算日に応当する日(四月一日)の前日(三月三一日)の満了を以て期間が終了する。三月三一日は二四時の時点を以て満了し、満了点を含んでいる日、すなわち昭和四七年三月三一日で満六〇才となる。」として、右措置要求を棄却した。

昭和四七年一二月二八日の再審却下の決定も同じ理由である。

(四)  しかしながら、満六〇才になるのは出生後六〇年間の期間が満了した時点以降であり、四月一日生れが出生後満六〇年間の期間が満了するのは、三月三一日午後一二時であつて、これより以前は五九才である。要するに満六〇才になるためには三月三一日が経過することが必要であり、右同日現在においては満五九才に過ぎない。

(五)  よつて右人事委員会の判定および再審却下の決定はいずれも原告の年令計算を誤つた違法があるので、その取消を求める。

三  被告の本案前の申立

原告の請求を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

四  被告の本案前の抗弁

(一)  (当事者適格について)

地方公務員法第四六条以下に規定する勤務条件に関する措置の要求は、地方公務員に対して与えられた権利であり、公務員関係の存続を前提として認められた制度であるから、既に退職した者は措置要求できないものと解されるところ、原告は、昭和四八年三月三一日依願退職し、現に地方公務員としての身分を有しないので、右措置要求に対する本件判定の取消を求める資格もないというべきである。

(二)  (訴の利益について)

本件判定は、地方公務員法第四六条、第四八条に基づいてなされた原告の勤務条件に関する措置要求に対する判断、意見の表明に過ぎず、原告の具体的な権利義務その他の法律関係につき直接拘束力ある効果を生ぜしめるものではないから、仮りに原告が本訴において勝訴したとしても、これにより原告はなんら直接に権利の回復又は救済を受けないのであつて、この点からして原告の本訴請求は訴の利益を欠く不適法なものというべきである。

(三)  (出訴期間の徒過について)

原告は昭和四七年五月一九日被告に対し本件措置要求をしたので、被告は同年一一月一六日付判定書を以て「原告の要求はこれを認めることができない。」との判定を下し、同判定書は同日原告に送達された。

右判定は行政事件訴訟法第三条に規定する裁決に該当するので、右裁決の取消を求める原告の本訴請求は、同法第一四条に従い、右判定書の送達の翌日から三か月以内に提起されねばならないとされるところ、原告は右出訴期間の経過後である昭和四八年三月二四日に至つて本訴を提起したものであるから、本訴には出訴期間の徒過した違法があるといわねばならない。

五  請求の趣旨に対する被告の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

六  請求の原因に対する被告の答弁

請求原因として原告の主張する事実はすべて認め、ただ明治四五年四月一日生れの原告が昭和四七年三月三一日には満六〇才に一日不足し、未だ満五九才である旨の主張を争う。

七  証拠<省略>

理由

一、本件訴のうち判定の取消を求める請求は、出訴期間を徒過したものとして不適法といわざるを得ない。

すなわち、成立に争のない甲第一号証(判定書)によれば、原告が本訴において取消を訴求する被告静岡県人事委員会の判定は、昭和四七年一一月一六日になされたものであることが認められ、また右判定書が同日原告に送達されたことは原告において自認するところであるから、原告は、行政事件訴訟法第一四条第一項により右同日から三か月以内に本訴を提起すべきであつたのであり、右期間を経過した昭和四八年三月二四日提起された本件訴は出訴期間を徒過した違法があるものといわざるを得ない。

この点につき、原告は、右判定に対して再審の申立を被告静岡県人事委員会に申立て、昭和四七年一二月二八日同委員会は再審却下の決定をしたのであるから、出訴期間は右同日から進行すると主張する。しかしながら、行政事件訴訟法第一四条第四項は、同条第一項の原則の例外として、「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合」、又は、「行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合」に限つて、処分に対する取消訴訟の出訴期間の起算日を審査請求に対する裁決があつたことを知つた日から起算するものと規定しているところ、本件のような人事委員会に対する措置要求の場合は、「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合」に該当するものということができず、又被告が誤つて教示をした事実も認められないので、原告がその主張のとおり再審の申立をしたとしても、前記第一四条第四項を適用することはできないといわなければならない。すなわちこれを詳言すると、地方公務員法第四六条以下に定めるいわゆる勤務条件に関する措置の要求およびこれに対する人事委員会等の判定の制度は、地方公共団体の当局の職員の勤務条件についての措置等に不満を抱く職員が、第三者的な機関である人事委員会等に対し、右当局により適当な措置がとられるべきことを要求するものであり、しかもその場合人事委員会等は、事案について口頭審理その他の方法による審査を行なつて事案を判定すべきものとされているのであつて、この措置要求・判定の制度は通常の行政処分の場合の審査請求・裁決の制度と同視すべきものといわなければならない。果してそうだとすると、審査請求裁決に相当する措置要求に対する判定に対しては、審査請求はもちろん異議申立もできないものというべきであるから、措置要求の場合は行政事件訴訟法第一四条第四項の「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合」に該当しないといわざるを得ないのである。

以上のとおりであつて原告の本件訴のうち措置要求に対する人事委員会の判定の取消を求める請求は出訴期間を徒過したものとして不適当というべきである。

二、本件訴のうち再審要求却下決定の取消を求める請求は、取消訴訟の対象となり得ない行政庁の行為の取消を求めるものとして不適法といわなければならない。

すなわち、前述のとおり、地方公務員法第四六条以下に定める措置要求・判定の制度は、通常の行政処分の場合の審査請求・裁決の制度と同視すべきものであるところ、このような実質を有する措置要求判定に対して再審の請求をすることができるかどうかは、もつぱら具体的な実定法規がこれを認めているか否かによつて決定されるものというべく、この見地に立つて本件措置要求判定に関する実定法規を検討すると、静岡県人事委員会規則一一ー九勤務条件についての措置の要求に関する規則には、措置要求判定に対して再審を認めた規定は存在しないことが認められるので、本件措置要求判定に対する再審の申立はもともと不適法なものというべきであつて、これに対して被告静岡県人事委員会においてなんらかの応答をしたとしても、その応答は法的意味をもつものでなく、取消訴訟の対象となる行政処分ということができないものといわなければならない。もつとも静岡県人事委員会規則一一ー一〇不利益処分についての不服申立てに関する規則第二三条以下に、不利益処分の審査請求の場合には再審の申立ができる旨の規定があることが窺われるけれども、右不利益処分の審査請求に関する規定を本件のような措置要求判定の手続に類推適用ないし準用することは、措置要求判定の手続の性質からいつて妥当でないものというべく、この点国家公務員の場合の人事院規則一三ー一「不利益処分についての不服申立て」には再審の請求に関する規定があるにかかわらず、同規則一三ー二「勤務条件に関する行政措置の要求」には再審に関する規定がないことが参照されるべきである。

三、以上のとおりであつて、原告の本件訴はいずれも不適法としてこれを却下すべきものであるが、なお付言するに、本件における唯一の争点たる明治四五年四月一日生れである原告が昭和四七年の年度末現在において満六〇才に達する者に該当するかどうかについては、当裁判所も被告静岡県人事委員会の本件判定と同様、これを積極に解する。けだし、昭和四七年の年度末たる同年三月三一日午後一二時は同時に同年四月一日午前零時でもあるのであつて、四月一日午前零時という形でとらえると六〇才に達するということができる以上、これと同一の時点である年度末現在たる三月三一日午後一二時現在において満六〇才に達したものとして取り扱うことも許されるというべきだからである。

四、よつて、原告の本件訴をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、行政事件訴訟法第七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水上東作 宍戸達徳 坂本慶一)

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